乗鞍エコーラインヒルクライムと剣ヶ峰登山に挑戦!乗鞍Bike&Hike(バイクアンドハイク)【2021年】【ロードバイク】
2021年7月1日、今年も乗鞍エコーラインの開通日を迎えました。
昨年、一昨年と二年連続で自転車でのヒルクライムに挑戦し、すっかり乗鞍岳の美しさに魅了された僕は、今年も乗鞍に行こうと心に決めていました。
目次
乗鞍バイクアンドハイク準備
今回は昨年やり残した剣ヶ峰登山に挑戦するための準備も少しずつ進めていました。ヒルクライムに加えての登山、いわゆるバイクアンドハイクです。自転車で乗鞍畳平まで行き、そこからは徒歩で剣ヶ峰を目指します。そのための準備として、自転車用のバックパックを新調しました。新調した理由は登山用のシューズとレインウェアを収納出来る容量が必要となるためです。ロードバイクの旅では基本背中には何も背負いたくはないのですが、今回はそうも言っていられません。バックパックはドイターのレースエアを購入しました。また、バックパックに装着するマムートのヘルメットホルダーも併せて購入しました。
乗鞍バイクアンドハイクをする上で解決しなければならないのがシューズの問題です。畳平から剣ヶ峰まで往復で約3時間の歩行が必要です。僕はSPDシューズなのでビンディングシューズでの歩行も短時間でアスファルト等の舗装されたあれば、それほど苦にはならないのですが、登山となると話は別です。そうかと言って、本格的なトレッキングシューズを持っていくには、重量・収納サイズ共に現実的ではありません。妥協点として僕が選択したのはローカットのアウトドアシューズでした。具体的にはメレルのジャングルモックです。ソールのグリップ力には大いに不安があるのですが、手持ちのローカットシューズで適当な物が無く、重量と収納サイズからの苦渋の選択でした。写真ではシートゥーサミットのシューズバッグに収納しています。
レインウェアは長年愛用しているノースフェイスのレインテックスフライト、ウインドシェルはパタゴニアのフーディニプルオーバーを選びました。これらシューズとウェアに加えて、乗鞍本宮の御朱印を頂く為の御朱印帳を加えると10リットルのレースエアの余裕はほぼ無くなりました。後は小物類や補給食を入れて終了です。
乗鞍バイクアンドハイク当日
ここまで準備を終えると、後は週末の天候をチェックする日々が続きました。季節は梅雨真っ盛りで、連日週末は雨予報が続きます。そうして半月が過ぎた頃に、遂にその日がやってきました。2021年7月17日。天気予報は文句の無い好天。願ってもいないチャンスです。
そして当日を迎えました。午前2時に目覚ましアラームをセットして床につきましたが、アラームが鳴る前の1時には起床しました。手早く身支度を整えると、2時過ぎには自宅を出発しました。自宅から乗鞍までは車でおよそ4時間。3年連続3回目ともなると通い慣れた感も出てきます。渋滞なども無く予定通りに乗鞍に到着しました。
乗鞍エコーラインヒルクライム開始
自転車を車から下ろして準備を終えると、乗鞍エコーラインの通行開始時刻の6時を待つくらいの余裕がありました。頭上には雲ひとつない澄み切った青空と眼前にはっきりと見える雪渓の残る乗鞍岳。絶景は約束されたようなものです。抑えきれないワクワク感の中スタートを切りました。澄み渡る青空の下、早朝の高原の清々しい空気を全身で味わいながら、ゆっくりと登り始めました。
今回も何度もその美しい景色に足を止めては写真に収めるを繰り返しながら進んで行きました。もちろん乗鞍エコーラインの激坂は、油断をすると僕の脚を攣らせようとしてきます。無理をしないことを意識しながら、慎重に進んで行きます。今回は畳平からの剣ヶ峰登山分の余力、脚力を十分に残しておかなくてはならないので、これまでのヒルクライムとは一線を画しました。
そして、空気が薄いということもあり乗鞍エコーラインではどうしても心拍数が高くなってしまいます。息が上がり過ぎない様に、脚を攣らさない様にと意識しながらの登坂が続きます。所々の工事区間や再建中の冷泉小屋、位ヶ原山荘、大雪渓といつもの見慣れたポイントを辿っていきました。
流石にこの時期では5mの雪の回廊は無く、かなり溶け始めた雪壁を見ることが出来ました。雪渓は至る所で見られ、暑いながらも涼しげな気分を味わうことが出来ました。
畳平到着
そして脚がパンパンになりながら満身創痍で何とか畳平に到着しました。エコーラインの終点では思いがけず同じtrek乗りの方のお話しを聞くことが出来ました。畳平に到着すると鶴ヶ池が出迎えてくれます。昨年と変わらない美しい姿を見ると、今年もこうして畳平まで来ることが出来たことに感謝をするような心持ちとなりました。
登山開始
そんな感慨に浸る時間も束の間、今回は次の目的地、剣ヶ峰登山が待っています。既に下半身の疲労感を感じるものの、登山が出来ない程ではないと判断しました。畳平バスターミナルのサイクルラックに自転車を預けて、早速、登山の準備を開始しました。バックパックから靴を取り出してビンディングシューズから履き替えます。天候は快晴で風も強くないため防寒着は必要なさそうです。畳平バスターミナルの温度計は14度を表示していました。ここから剣ヶ峰までの往復の参考タイムは3時間です。お花畑に下りる階段から、バイクアンドハイクのセカンドステージが始まりました。
高山植物の可愛らしい姿を見ながらゆっくりと歩を進めて行くと、早々に体に違和感を覚えました。大腿部のハリを感じ、気を抜くと太ももが攣りそうな嫌な感覚を覚えました。先行きに不安を感じながらの登山開始となりました。乗鞍岳の剣ヶ峰登山は2007年に一度だけ経験があります。当時の記憶は殆ど残っておらず、登山道の険しさや体力的な不安が無い訳ではありませんでした。2007年は天候があまり良くなかった事とライチョウに会えた事だけは鮮明に覚えています。
登山の序盤、まだまだ歩きやすい登山道なのですが、既に足は悲鳴を上げ始めました。歩いては立ち止まり、足の様子を伺うというような事を繰り返して進んで行きました。しかし、そんなマイナスな気持ちが一気に晴れる絶景が目の前に飛び込んできました。
不消ヶ池
不消ヶ池(きえずがいけ)です。消ヶ池のエメラルドグリーンの水面の美しさには目を見張る物がありました。雪渓と氷と水面が織りなす幻想的な風景がそこにはありました。鶴ヶ池の美しさとはまた一味違った美しさです。本物は今まで見たことがありませんが、映像で見る氷河の美しさのような蒼さ、碧さが目の前に広がっていました。乗鞍ブルーの清々しく抜けるような青空と紺碧の不消ヶ池の水面。この景色を見るために乗鞍に来る価値が有ると断言しても良いくらいのインパクトがそこにはありました。
いつまでも眺めていたくなる不消ヶ池ですが、いつまでもここに留まって居る訳にはいきません。すっかり疲れを忘れて歩き始め程なくして、肩の小屋に到着しました。途中の大雪渓では、つい先程エコーラインから見上げた大雪渓のスキーヤーの姿を、今度は上から見下ろす格好になります。そして、肩の小屋を過ぎると剣ヶ峰口と登山道が始まりました。
剣ヶ峰口登山道
ここから先は本格的な登山道が始まり、急激に歩き難くなります。岩や石がゴロゴロと転がり砂利で滑りやすい足元は油断をすると転倒の恐れがあります。ただでさえ疲労困憊、そして僕の靴はトレッキングシューズではなくジャングルモック。慎重に慎重を重ねて丁寧な足運びを意識しながら歩みを進めていきました。剣ヶ峰口に入ると登山客の数も増えてきました。所々で登山道を譲り合いながら、周囲の様子にも気を配りながらの登山が続きます。
権現池
しばらく行くと不消ヶ池に負けず劣らずの大絶景、権現池が姿を表しました。不消ヶ池よりもスケールが大きな権現池。その美しさには言葉も出ません。こちらも雪渓と水面が形作る美しさ、碧さにただただ感動していました。そして権現池は剣ヶ峰に向けて高度を上げて行く最中、至る所からその姿を見ることが出来るので、足を止めては写真を撮る手を止めることが出来ませんでした。
ここまで来ると剣ヶ峰の頂上の鳥居の姿も目に入る様になってきました。
剣ヶ峰登頂
一歩また一歩と少しずつ歩みを進め、歩いては止まりを繰り返しながら、遂に頂上の鳥居に到着しました。一礼をして鳥居をくぐり、乗鞍本宮の奥宮に参拝を済ませて達成感に浸っていました。この奥宮への参拝が今回の剣ヶ峰登山の一番の目的でした。そして、山頂からは360度の大パノラマの絶景を堪能できます。これ以上無いくらいの好天で視界良好の中、周囲の山々の姿を捉える事が出来ました。
その後は、山頂の山小屋の頂上小屋まで歩き、目的の一つのバイクアンドハイクのピンバッジと通常の剣ヶ峰登頂のピンバッジを購入しました。バイクアンドハイクのピンバッジには「国内自転車最高点到達」の文字が誇らし気に刻まれています。これで全ての目的は達成出来ました。
下山 高山病による体調悪化
後は下山するだけです。足の疲れもピークに達しつつあり、下山と言えども足を止めての休憩を度々重ねました。そして遂に心配していた高山病の症状も出始めている事に気が付きました。生あくびと軽い頭痛が僕の体を襲います。食欲の無さは随分前から感じていましたが、明らかに体の異変が出始めました。こうなると高山病体質の自分の体が憎らしく思いますが、ここで嘆いても仕方ありません。今はただ少しでも早く高度を下げるしかありません。しかし、疲れがピークの足では思うように下山のペースを上げることが出来ずジレンマに悩まされました。滑り易い足元に注意を払いながら、出来る限りのペースアップを試みます。あれほど感動した権現池も不消ヶ池も下山時には写真を撮る余裕も無く、ただ前を向いて歩き続けました。そしてようやく畳平のバスターミナルが目前に迫るお花畑までやってきました。
バスターミナルまでの最後の長い階段を一歩また一歩と足を引きずりながら登ります。太ももが攣りそうになるのを堪えながら立ち止まり、腰を下ろしてストレッチをします。もう少しもう少しと最後の階段をやっとの思いで登りきり畳平バスターミナルまで戻ってきました。安堵の溜め息が自然に溢れます。そして、これが本当に最後の目的である乗鞍本宮の中之宮に参拝を済ませた後、御朱印を頂く事が出来ました。
畳平到着 極限の精神状態
畳平まで無事に戻って来られたことで張り詰めていた緊張感も多少緩みますが、体調は相変わらず回復しませんでした。それどころか悪化の一途を辿っていました。とにかく今は少しでも早く下山し高度を下げて体調の回復を図るしかありません。
ビンディングシューズに履き替える気力も無く、ダウンヒルの防寒用のウィンドシェルを羽織る気力もありませんでした。自転車用の手袋ですら着ける気にもすらならず、兎に角一刻も早く下山したいという気持ちで自転車に跨っていました。改めて振り返って見ると、この時の僕は冷静さを著しく失っており、危険な状態であったことが分かります。また、それくらい体調が悪かったということの現れでもありました。
過酷なダウンヒル
そんな状況だったので、本来であれば苦しいヒルクライムの後のお楽しみ、ご褒美のダウンヒルも過酷を極めました。爽快感や高揚感も無いままに、ただ無事に下山することだけを考えてスピードを極力控えて一心不乱に下り続けました。風を切ることによる体の冷え、手先の冷えを感じます。足の震えは寒さによるものなのか、溜まりに溜まった疲労のよるものなのかも今は分かりません。いつもはあっという間の乗鞍エコーラインのダウンヒルがこの時ばかりは、途方も無く長い時間に感じました。
そして長い戦いが終わりを迎えるようになんとか無事に駐車場まで戻ってきました。安堵の思いに包まれます。畳平の涼しさとは打って変わって、真夏の空気がそこにはありました。最後の気力と体力を振り絞って自転車を車に積み込み、着替えを済ませて運転席に座るとしばらく動けない時間が続きました。背もたれを倒して暫しの休憩です。こうして僕の初めての乗鞍バイクアンドハイクは幕を下ろしました。
まとめ
こんなにも肉体的・精神的に追い込まれたのは、高山病によるものだと思います。そんな大変な目にあっても、一晩眠ると全てが宝物の様な思い出に変わるのが乗鞍の魅力です。剣ヶ峰登山をしてみて、乗鞍の新たな一面を目の当たりにして、ますます乗鞍が大好きになりました。天空の楽園、天国のような場所、そんな別天地に自分の足で、自転車で辿り着けるのが乗鞍です。今でも目を閉じると瞼の裏に浮かぶのは、乗鞍の絶景です。自転車乗りの方、山歩きが好きな方は、是非一度乗鞍岳に登ってみてください。天気の良い乗鞍は、きっときっとあなたの想像を超えた絶景に出会える、そんな場所です。